抗生物質を長期間使い続けると、抗菌薬が効かなくなる耐性菌の出現が問題になることから、製薬メーカーにとっては、新たな抗菌薬を開発し続けなければいけません。
グレースビット(一般名:シタフロキサシン水和物、略号:STFX)はニューキノロン系抗菌薬に分類され、2008年に日本で販売開始された薬剤です。
グレースビットについて作用機序や特徴、同じニューキノロン系抗菌薬であるクラビット(レボフロキサシン)との違いについてまとめました。
グレースビット作用機序・殺菌的・濃度依存型抗菌薬
グレースビット(シタフロキサシン)は細菌のDNAの複製に関わるDNAジャイレースとDNAトポイソメラーゼⅣを阻害することで、細菌の増殖を抑え、殺菌的に作用します。
濃度依存型抗菌薬のため、1日に数回に分けるのでなく、1度に高用量を服用することで効果を発揮するのが特徴です。
グレースビット(シタフロキサシン)とロキソニン(ロキソプロフェン)の併用
グレースビットの添付文書には「フェニル酢酸系又はプロピオン酸系非ステロイド性消炎鎮痛薬は痙攣の誘発の可能性があることから併用に注意するように」と注意書きがあります。
ロキソニンはプロピオン酸系非ステロイド性消炎鎮痛薬に該当するためロキソニンも併用には注意をしなければいけないことになります。
しかし、実際の臨床現場でグレースビットとロキソニンの併用はしばしば見られます。
同じニューキノロン系の抗菌薬であるクラビット(レボフロキサシン)の記事になりますが、
こちらにニューキノロン系抗菌薬とロキソニンとの併用についての詳細を記載しています。
クラビット(レボフロキサシン)ロキソニン(ロキソプロフェン)の併用で痙攣が起こる?
しかし、グレースビットを処方された際に自己判断で家にあるロキソニンや市販のロキソニンSの服用は避けるようにしましょう。
グレースビット(シタフロキサシン)とアルコール(酒)
「グレースビット服用中にお酒の飲んでいい?」
患者さんから時々聞かれることがあります。
グレースビット(シタフロキサシン)とアルコール(酒)は薬学的には併用注意にはなっていません。
しかし、細菌感染時は体の負担を減らすためにもアルコールの摂取は極力控えた方がよいと考えられます。
グレースビット(シタフロキサシン)とクラビット(レボフロキサシン)の違い
グレースビットはクラビット(一般名:レボフロキサシン)の後継品として製薬メーカーは第一三共から販売されています。
抗菌薬を長年使うことによって問題となるのが耐性菌の出現です。
そのために製薬メーカーは新しい抗菌薬の開発が必要になってきます。
グレースビットとクラビットは細菌のDNAの複製に関わるDNAジャイレースとDNAトポイソメラーゼⅣを阻害することで、細菌の増殖を抑えるのですが、これらの阻害作用はグレースビットの方が強いのが特徴です。
グレースビットとクラビットの違いについてまとめました。
適応症の違い
グレースビットとクラビットには適応症に違いがあります。
眼科領域、皮膚科領域、腸管、胆道に対する適応症はクラビットにはありますがグレースビットにはありません。
領域 | 適応症 | クラビット | グレースビット |
---|---|---|---|
眼科 | 涙嚢炎 | ○ | |
麦粒腫 | ○ | ||
瞼板腺炎 | ○ | ||
歯科口腔外科 | 歯周組織炎 | ○ | ○ |
歯冠周囲炎 | ○ | ○ | |
顎炎 | ○ | ○ | |
耳鼻咽喉科 | 外耳炎 | ○ | |
中耳炎 | ○ | ○ | |
副鼻腔炎 | ○ | ○ | |
化膿性唾液腺炎 | ○ | ||
皮膚科・外科 | 表在性皮膚感染症 | ○ | |
深在性皮膚感染症 | ○ | ||
リンパ管・リンパ節炎 | ○ | ||
慢性膿皮症 | ○ | ||
ざ瘡 (化膿性炎症を伴うもの) | ○ | ||
外傷・熱傷及び手術創等 の二次感染 | ○ | ||
乳腺炎 | ○ | ||
肛門周囲膿瘍 | ○ | ||
胆道 | 胆嚢炎 | ○ | |
胆管炎 | ○ | ||
呼吸器 | 咽頭・喉頭炎 | ○ | ○ |
扁桃炎 (扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む) | ○ | ○ | |
急性気管支炎 | ○ | ○ | |
肺炎 | ○ | ○ | |
慢性呼吸器病変の二次感染 | ○ | ○ | |
肺結核及びその他の結核症 | ○ | ||
腸管 | 感染性腸炎 | ○ | |
腸チフス | ○ | ||
パラチフス | ○ | ||
コレラ | ○ | ||
泌尿器 | 膀胱炎 | ○ | ○ |
腎盂腎炎 | ○ | ○ | |
前立腺炎 (急性症、慢性症) | ○ | ||
精巣上体炎 (副睾丸炎) | ○ | ||
尿道炎 | ○ | ○ | |
婦人科 | 子宮頸管炎 | ○ | ○ |
バルトリン腺炎 | ○ | ||
子宮内感染 | ○ | ||
子宮付属器炎 | ○ | ||
動物性感染症 | 炭疽 | ○ | |
ブルセラ症 | ○ | ||
ペスト | ○ | ||
野兎病 | ○ | ||
Q熱 | ○ |
適応菌の違い
クラビット錠とグレースビット錠には適応菌にも違いがあります。
赤色文字・・クラビットにありグレースビットにない適応菌
緑色文字・・グレースビットにありクラビットにない適応菌
クラビット錠の適応菌
本剤に感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属、淋菌、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、炭疽菌、結核菌、大腸菌、赤痢菌、サルモネラ属、チフス菌、パラチフス菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア属、ペスト菌、コレラ菌、インフルエンザ菌、緑膿菌、アシネトバクター属、レジオネラ属、ブルセラ属、野兎病菌、カンピロバクター属、ペプトストレプトコッカス属、アクネ菌、Q熱リケッチア(コクシエラ・ブルネティ)、トラコーマクラミジア(クラミジア・トラコマティス)、肺炎クラミジア(クラミジア・ニューモニエ)、肺炎マイコプラズマ(マイコプラズマ・ニューモニエ)
引用元 クラビット錠 添付文書
グレースビットの適応菌
本剤に感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属、モラクセラ (ブランハメラ)・カタラーリス、大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、インフルエンザ菌、緑膿菌、レジオネラ・ニューモフィラ、ペプトストレプトコッカス属、プレボテラ属、ポルフィロモナス属、フソバクテリウム属、トラコーマクラミジア (クラミジア・トラコマティス)、肺炎クラミジア (クラミジア・ニューモニエ)、肺炎マイコプラズマ (マイコプラズマ・ニューモニエ)
引用元 グレースビット添付文書
錠剤の大きさの違い
クラビット錠は250mgと500mgの規格がありますが、直径が13.7mm(250mg)、16.2mm(500mg)と大きいですが、
グレースビット錠は50mgのみの規格で直径が7.7mmと小さく、高齢者でも飲みやすいのが特徴です。
グレースビットの方が下痢の副作用の頻度が高い
臨床試験での副作用データで下痢や軟便の発現率はグレースビットの方が高くなっています。
一般的に抗菌薬は耐性菌を防ぐために処方された日数は飲みきる必要がありますが、水のような下痢になった場合は主治医に相談するのがよいでしょう。
薬品名 | 下痢・軟便の副作用発現率 |
---|---|
クラビット | 下痢( 1.39%) 臨床試験1582例中 |
グレースビット | 下痢(5.7%)、軟便(7.0%) 臨床試験1220例中 |