前立腺癌の中でも去勢抵抗性前立腺癌(読み方:きょせいていこうせいぜんりつせんがん)に適応のある抗アンドロゲン薬がイクスタンジ錠(一般名:エンザルタミド)です。

イクスタンジ錠がどのように前立腺がんの増殖を抑えるのか、作用機序について解説していきます。

去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)とは?

去勢抵抗性前立腺癌とはホルモン療法によって男性ホルモンの働きが抑えられているのにも関わらず悪化する前立腺癌のことをいいます。

前立腺癌細胞は男性ホルモンアンドロゲン)の影響を受けて増殖します。

前立腺癌のホルモン療法ではアンドロゲンの分泌や作用を阻害して前立腺癌の増殖を抑えます。

しかしホルモン療法を続けていくと、効果が弱くなり、腫瘍マーカーであるPSAが上昇したり、前立腺癌が進行してしまうことが起こりまます。

このような状態を

去勢抵抗性前立腺がん(きょせいていこうせいぜんりつせんがん)
CRPC(castration-resistant prostate cancer)シーアールピーシー

と呼びます。

去勢抵抗性前立腺癌の専門的な定義は下記のとおりです。

外科的去勢、薬物による去勢状態で、かつ血清テストステロンが50ng/dL未満であるにもかかわらず病勢の増悪、PSAの上昇をみた場合、抗アンドロゲン剤の投与の有無にかかわらず、CRPCとする。

引用元 ザイティガ.jp

イクスタンジ(エンザルタミド)作用機序

前立腺癌細胞は男性ホルモン(アンドロゲン)の影響を受けて増殖しますので、

  • アンドロゲンの生成を抑えるか
  • アンドロゲンの働きを抑えるか

ができれば前立腺がんの増殖を抑えられるのではないかという考えで開発されたのが抗アンドロゲン薬です。

イクスタンジ(エンザルタミド)は抗アンドロゲン薬であり、アンドロゲンの働きを抑えることで前立腺がん細胞の増殖を抑えます。

アンドロゲンはアンドロゲン受容体(AR)に結合した後に、ARの情報伝達(シグナル伝達といいます)を通して前立腺がん細胞の増殖に関わります。

アンドロゲンの働きを抑えるためにはアンドロゲン受容体にアンドロゲンが結合するのを邪魔すればいいわけです。

イクスタンジ(エンザルタミド)はアンドロゲン受容体と結合することで、アンドロゲンがアンドロゲン受容体に結合するのを阻害します。

またその他の特徴的な作用がアンドロゲン受容体のシグナル伝達を複数の段階で阻害することです。

去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)ではアンドロゲン受容体(AR)が過剰に出現しているため、低濃度のアンドロゲンにも反応しARのシグナル伝達が亢進した状態となっています。

ARのシグナル伝達は下記のように行われます。

アンドロゲンがアンドロゲン受容体に結合

核内に入りDNAと結合

転写を促すコアクチベーターが結合し転写開始

前立腺がん細胞の増殖が亢進

イクスタンジ(エンザルタミド)の作用機序をまとめると下記のとおりです。

  1. アンドロゲン受容体(AR)と結合しアンドロゲンがARに結合するのを阻害
  2. アンドロゲン受容体(AR)の核内移行を阻害
  3. 核内でアンドロゲン受容体(AR)とDNAの結合を阻害
  4. 転写を促すコアクチベーターの結合を進めせない

他の抗アンドロゲン薬であるカソデックス(一般名:ビカルタミド)やオダイン(一般名:フルタミド)は「1」のアンドロゲンがアンドロゲン受容体に結合するのを阻害する作用のみですが、イクスタンジ(エンザルタミド)は2,3,4のようにアンドロゲン受容体(AR)のシグナル伝達阻害も有するのが特徴です。

上記の作用によって

  • 腫瘍細胞死の増加
  • 腫瘍細胞増殖の抑制
  • 腫瘍体積の縮小・退縮

が期待されます。

ザイティガ(アビラテロン)と作用機序の違い

去勢抵抗性前立腺癌の治療薬にザイティガ錠(一般名:アビラテロン酢酸エステル)があります。

イクスタンジ錠(エンザルタミド)と同じ抗アンドロゲン薬に位置付けられますが作用機序に違いがあります。

イクスタンジ錠(エンザルタミド)はアンドロゲンがアンドロゲン受容体に結合するのを阻害したり、アンドロゲン受容体のシグナル伝達を阻害することで、アンドロゲンの作用を邪魔します。

一方でザイティガ錠(アビラテロン)はアンドロゲンの生成に関わるCYP17という酵素を阻害することで、アンドロゲンの生成を抑えます。

同じ抗アンドロゲン薬といっても、アンドロゲンの働きを阻害するイクスタンジ錠、アンドロゲンの生成を阻害するザイティガ錠と、メカニズムに違いがあるのです。

CYP2C8で代謝

イクスタンジ(エンザルタミド)は主にCYP2C8という酵素で代謝されます。

また代謝酵素である CYP3A4、CYP2C9、CYP2C19、CYP2B6を誘導することが報告されていることから、CYP3A4で代謝されるミタゾラム、CYP2C9で代謝されるワルファリン、CYP2C19で代謝されるオメプラゾールなどが効果が減弱する可能性があるため併用注意となっています。

飲み方・飲み忘れた場合の対応

イクスタンジは軟カプセルです。
かんだり、開けたりせずに、そのままコップ1杯の水で服用するようにしましょう。

飲み忘れに気づいた場合は、通常はその日中であれば気づいた時に服用することとされています。
翌日気づいた場合は1回分を服用し、1日に2回分の服用は避けるようにしなければいけません。